2008年3月6日木曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その31


春がちかづいていますね。生まれてこのかたツクシを見たことがない(!)というミス・スパンコールは今年も紙に奇妙なツクシの想像図を描きながら、ああでもないこうでもないと頭をひねっています。


 *


フランダースの犬将軍さんからのしつもんです。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)ハイカラな5代目ですね。



Q: なんで人間には、お腹の中にいたときの記憶がある人がいるんでしょう?



「という質問です、博士」
「ダイゴくんはおぼえてるの?」
「僕はおぼえてないです」
「ああ、じゃ書類にサインしたんだね」
「書類?書類って何ですか」
「出生手続きだよ。胎児という胎児はすべからくこれを経て体外に出る」
「手続きって…生まれるのに許可がいるんですか」
「国外に出るのだって出国審査があるだろう」
「それとこれとは別の話ですよ」
「同じだよ」
「ちがいます」
「おぼえてないくせに困ったやつだな」
「常識と非常識の区別くらい僕にもわかります」
「ほ乳類はみな胎内で手厚すぎるほどのサポートを受けてるんだ」
「それはまあ、そうですね」
「それが体外に出ると一切受けられなくなる」
「当然そうなりますね」
「われわれはそれに同意しなくてはならんわけさ」
「でも母親がいるじゃないですか」
「そう。ようするに胎内から母親へ業務を引き継ぐための手続きだね」
「胎内だって母親の一部じゃないですか」
「管轄がちがうんだ」
「同じです」
「母親が胎内のすべてを把握しているなら超音波で様子をうかがうなんてことはしなくていいはずだ」
「おなかの中なんだからあたりまえでしょう」
「だって君もサインしてるんだよ」
「サインなんかしたおぼえないけど…」
「おぼえてたら意味ないからね」
「何の書類でしたっけ?」
「胎内において知り得た機密の一切を口外しないという、言わば同意書だな」
「機密…」
「サインをすると、そのあとにトンカチが待ってる」
「トンカチ?」
「記憶をあやふやにするためのあやふやした処理をそう呼ぶんだ」
「漠然としすぎて気味がわるい」
「それがすごく痛いんだよ」
「痛い?」
「すごく痛い」
「どれくらいですか」
「母体に影響を及ぼすくらい」
「ひょっとしてそれが陣痛なの?」
「そのとおり」
「なまなましくて泣けてくるなあ…」
「それだけ痛い目に遭うということは、それを逃れる輩も当然出てくるわけだ」
「事前に知ってたら僕も逃げたい」
「監理官のなかには話のわかるやつもいる」
「でも渡せる賄賂とか何もないじゃないですか」
「すっぱだかだしな」
「どう話をつけるんです?」
「それこそ機密レベルの話さ、ダイゴくん」
「何をいまさら!」
「しいて言うならお互いさまってとこだね。監理官には監理官の思惑があるし、人生のかけひきはそこから始まってるんだ」
「気になる…」
「天寿をまっとうすればいずれわかることさ」
「博士はどうしてたんですか」
「どうしてたって…そうだな、じゃ毛氈苔に電話してみるか」
「モーセン?」
「監理官のひとりだよ」

ピ、ポ、ピ、プ
プルリルリ
カチャリ

「あ、モーちゃん?ムーちゃんだけど」
「ムーちゃん?」
「あのね、ちょっと話をしてやってほしいんだ。うん、まあ…似たようなものだな。たのむよ。うん。だいじょうぶ。ああ、そうだね。じゃあ用意しとくよ。へいきへいき。バカだから」
「なんかすごく失敬なことを話してる気がするな」
「ホラ」
「あ、え?ちょっと、えーともしもし…。ハイ。イエとんでもないです。はぁ。…そうなんです。ハイ。ええ。でもその…えええ?そうなんですか。いや、博士らしいというか、でも…ハイ、はぁ。なるほど…わかりました。ハイ。ありがとうございます。ハイ、それでは」
「なっとくしたかね?」
「ええまあ…イヤびっくりした」
「そりゃよかった」
「その注射器なんですか」
「刺すんだよ、こう」

プスリ

「痛ッ。なに?なんの注射?」
「献血みたいなものだよ」
「いやいや逆でしょ!注入してたらればるてのぷ」

ガクリ

「おやすみ」



A: 分娩の際、胎内で同意書にサインをしたか否かです。



 *


2月のBen's Cafeにも来てくれていた、フランダースの犬将軍さんの1曲は「手漕ぎボート」です。どうもありがとう!そして詩人の刻印(ほぼ)全曲レース、とうとうバミューダが首位から転落です。

ボート 7
バミューダ 6
蝸牛 6
話咲く 5
紙屑 3
ユリイカ 3
アンジェリカ 2
腐草為蛍 1


 *



dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)



その32につづく!

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