2008年4月27日日曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その47 (b)


<前回までのあらすじ>
いただいた質問にお答えすべく、ムール貝博士の元にわざわざ足を運んだ小林大吾。博士は道のまんなかにあるマンホールに釣り糸をたらし、善良なる歩行者の往来を妨げていた。丁々発止のやりとりを交わしつつも、なんとか博士の気を引こうと奮闘する小林大吾だったが、あろうことか本題である質問へと話を移す前に立ち去られてしまう。前代未聞の事態へと発展したパンドラ的質問箱、果たして博士からまともな回答を引き出すことはできるのか?そもそもまともな回答を得られたことなど今までに一度でもあったのか?いまだ予断をゆるさない状況のなか、小林大吾はふたたびムール貝博士宅の呼び鈴を鳴らす。


ピンポーン

「博士は留守だよ」
「その手は前にも使いました」
「ますます留守だよ」
「きのう『また明日』って言ったじゃないですか」
「社交辞令だ、あんなの」
「じぶんで言わないでくださいよ!しかも面と向かって」
「質問だろう?答えはノーだ」
「まだ何も言ってないですよ」
「手間をはぶいてやったんだ」
「勝手に二択にしないでください」
「こっちにも都合ってものがあるんだ」
「お邪魔でしたか」
「君がくるときはだいたい邪魔だね」
「はいコレおみやげ」
「何だ?」

ヒソヒソ

「しかたないな。質問を聞こうじゃないか」
「今日はこれです」



Q: 眼鏡をかけている人は、レンズを通した世界が本当なのでしょうか?それとも肉眼で見る世界が本当なのでしょうか?



「君が答えりゃいいじゃないか!」
「博士にきてるんですよ。博士もかけてるでしょ」
「伊達だから意味ない」
「え、そうなの?」
「視力は10.0だ」
「ほとんどメカですね」
「機械といっしょにするな」
「じゃあかけなきゃいいじゃないですか」
「そうだな。じゃあそういうことで」
「あしらわれた!」
「いちいち付き合ってられるか」
「では本題に入りましょう」
「めげないやつだ」
「この方は生まれてからずっと視力が1.5なんですって」
「たいしたことないな」
「博士が異常なんです」
「奇特なやつに言われたくない」
「ヘンなとこでムキにならないでください」
「要はないものねだりってことか」
「そうみたいですね」
「しかしそもそもこの『本当』というやつが曲者だ」
「はあ」
「世界が絶対的なものとしてあることが前提になってる」
「なるほど」
「『正しくある』んではなくて、『そう見える』だけなんだよ」
「もっともらしく聞こえますね」
「幻肢痛(phantom-limb)のことを知っているだろう?」
「小林大吾の詩集、『2/8,000,000』の44と1/2 ページにちょこっと書いてありますね」
「見えている世界の重要性というのはそれくらい振れ幅の大きいものだよ」
「どっちが本当どころか、どっちも嘘かもしれないってことですね。そういえばおたよりにはこんなことも書かれてます」


眼鏡という、自分ではないものの力を借りて見た世界は、もしかしたらどこかで、自力で観る世界では見えないモノが見える可能性はないんでしょうか。


「ああ、論点はこっちなのか」
「そうあってくれたら、みたいな気持ちがありそうですね」
「ロマンチックな話じゃないか」
「博士に尋ねたりさえしなければね」
「しかしこんなのは視力に関係なくよくあることだよ」
「どういうことですか」
「だいたい、視界に入ってるものすべてが見えているわけじゃないんだ」
「友達とすれちがってるのに気がつかないとか?」
「視覚ってのはじぶんで思っている以上に意識的なものなんだ」
「ふむふむ」
「逆に言うと、他の人には見えないものが視界に入っていながら、本人がそれに気づいていない可能性もある」
「そうなんですかね」
「待てよ、これはしかし…」
「なんですか」
「眼鏡のほうがいろいろ見えてたのしいですとかそういうことを言っておいたほうがおもしろいのか、話としては」
「よけいな気を回さなくてけっこうです」
「どのみち確かめようがないんだろう?」
「視力、イイらしいですからね」
「じゃあそれでいいじゃないか。眼鏡をかけると人外のモノも見えることがあります」
「僕見たことないですよ」
「魔女を見たことがあるって言ってたじゃないか」
「それは眼鏡をかけてないちびっこの頃の話です」
「じゃ今は気づいてないだけだろう」
「あれ?でも気づいてないなら眼鏡をかけてようがかけてまいが同じことじゃないですか」
「だから君がそれを言ったら元も子もないんだよ」



A: 眼鏡はいろいろ見えてたのしいです。



「このぶんだと質問、こなくなっちゃいますよ」
「こっちはそのほうが助かるよ」
「そうするとブログが困るんですよ」
「知ったことか」
「人でなし!」
「メカだの何だのってさんざん言ってたのはどこのどいつだ」


 *


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dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)




その48 につづく!

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