2013年4月23日火曜日

ムール貝博士のパンドラ的質問箱 その144、またはカミカゼの国の慣用句について


問題:「清水の舞台から飛び下りるつもりでやってみるよ」と真剣な顔つきで打ち明けられました。実際のところ、清水の舞台だろうが何だろうが、高所から地面までストレートに落下すれば人体がどうなるかは考えずとも明らかです。正しいリアクションを次の2つから選びなさい。

A: がんばれ
B: 早まるな



フランソワとUFOさんからの質問です。(ペンネームはムール貝博士がてきとうにつけています)


Q: ダイゴさんの好きな詩集を教えてください。


これだけ回を重ねてきたパンドラ的質問箱で、詩のことを訊かれたのはひょっとしたらこれが初めてかもしれません。もっとあってもおかしくないのに、考えてみればふしぎなことです。そうでもないか。

真っ先に挙げられる一冊があるとすれば、新潮文庫から出ている(今もある…よね?)「北原白秋詩集」です。選り抜きのベスト盤みたいなものですね。うまれて初めて自分の意志で手に取った詩集がこれでした。僕にとってはかなり大きな意味のある一冊です。とくに「邪宗門秘曲」という一編の、目眩がするようなカッコ良さにシビれた気持ちは今もぜんぜん変わりません。ただ好きというより原点と言ったほうが近いような気もする。

好きと言われて思いつくのは井伏鱒二の「厄除け詩集」です。「サヨナラ」ダケガ人生ダ、で知られる漢詩の超意訳(←最高)がガッツリ収められていて、今もときどき読んでいます。何をどうしたら中国の古い詩が "アサガヤアタリデ大ザケノンダ"(阿佐ヶ谷は杉並区にある地名です)に訳されるのかちっともわからない。でもこのギリギリアウトな跳躍こそが詩という表現形態の真骨頂だと僕はおもいます。授業でこんな訳し方したら叱られる可能性のほうがたぶん高い。

あと、"なだれ"という詩も大好き。説明しちゃうとそれでぜんぶ終わっちゃうから言わないけど、手に取って読む価値は大いにアリです。こうありたいと願うところの詩をひとつ挙げるなら、迷わずこれを選びます。僕が好きな理由も何となくわかってもらえるとおもう。とにかくこの詩集は全編がユーモアと日向の水たまりみたいなぬるさに彩られていて、そこが好き。

せっかくだからこんなのもあるよ的な視点で言うと、ニッキ・ジョバンニの「女と男」があります。もともとは Blackalicious というヒップホップグループがカバーした「Ego Trip by Nikki Giovanni」で知ったんだけど、アレサ・フランクリンやニーナ・シモンについて書かれた詩があるという薄っぺらい理由で読むようになりました。でもまあ、きっかけは何だっていいのです。"Ego Tripping" の壮大なイメージとそこからほとばしる磁力にも似た言霊は鳥肌ものだし、これはいったい何だろうといつも首をかしげてしまう。ちなみに詩集だけでなく、リーディングのLPも数枚リリースしています。CD化されてたかな。されてたかも。


A: 井伏鱒二の「厄除け詩集」です。




質問はいまも24時間無責任に受け付けています。

dr.moule*gmail.com(*の部分を@に替えてね)


その145につづく!

5 件のコメント:

ダチョウのジョナサン さんのコメント...

長い間頑なに沈黙を保ってきたのに、酒の酔いに任せて一度コメントを残したら前回の半分くらいの勇気でコメントを書き込めるようになりました。
邪宗門と名が付けられたものはエネルギーに溢れた物が多いように思います。寺山修司や高橋和巳ですとか。あと読んだことはないですけれど芥川龍之介も邪宗門と題した文章を書いていたような??

ちなみに僕の好きな詩集は田村隆一の"腐敗性物質"です。
(あともちろんピカピカの円盤に刻まれた3枚の詩集も)

赤舌 さんのコメント...

Aです。急いで体育館からマット持ってきます。

詩って読もうと思って読んだことないなぁ。探して読んでみよう。

単粒度砕石 さんのコメント...

「がんばれ」と言って手足をふんじばって突き落とすか、「早まるな」と言って首に縄をかけてひっぱるか、ですよね。迷います。どうしよう…。


落下点にトランポリン置いとくのはどうでしょう?

グリチルリチン さんのコメント...

清水の舞台って、たしか昔のお巡りが蔀でふわりと華麗に飛び降りたので、みんなが真似しだしちゃったんでしたっけ。
ダイブ&フロウが由緒正しいKIYOMIZUスタイルなわけですね。

谷川のおじいちゃんの「ことばあそびうた」のなかの一編だと思うのですが、「わたしもり」という詩が好きです。
平仮名のある国にうまれてよかったと思いました。

ピス田助手 さんのコメント...

> ダチョウのジョナサンさん

何しろ「邪宗」という言葉の響きからして
黒々とした重さが感じられますものね。
芥川は「羅生門」かな?(似てる)

田村隆一はシブい!


> 赤舌さん

正しい!
マットじゃ不十分という気がしないでもないですけど。
詩は当たりはずれが異常に激しいのでお気をつけあそばせ!


> 単粒度砕石さん

そしてより正しいのはトランポリンでしょうね。やはり。
手足ふんじばって突き落とすで間違いないとおもいます。
じつにすがすがしい!
座布団2枚。(+唐揚げひとつ)


> グリチルリチンさん

たまたまフワッと着地できた人を引き合いにして
慣用句つくられても困るよな、とおもいます僕は。

ひらがな、僕も大好きです。
わざわざ漢字を変換し直すくらいに。