2013年4月11日木曜日

ミュンヒハウゼン男爵の手引きによるエイプリルフール考


4月1日にあった「東京都現代美術館の閉館騒ぎ」には、ユーモアとその受け止め方への教訓がふんだんに盛りこまれているとおもうのです。

引き金となった記事のことではありません。その流れ弾が当たった美術館のことでもありません。また、それを非難した人々のことでもありません。その全部です。

同じエイプリルフールでどうしてこうも違った結果を生むのか、ひとつ紐解いてみましょう。


根が正直な人、つまりホラを吹き慣れていない人は、それをウソと同じ「本当でなくてよかったと思えること」として認識しがちです。そのため、話の最終的な着地点を「ガッカリ」ではなく「安心」に持っていこうとする傾向があります。先の認識からすればわりと自然な帰結だとおもうし、おそらくここに悪意はありません。どちらかといえば善意寄りの発想です。ある種の心配りと言ってもよいでしょう。

しかしユーモアの世界ではそれが完全に裏目に出ます。最終的に「よかった…」と胸をなで下ろすためには、その発言が本当だと困るようなこと、人の不安をかき立てるものでなければならないからです。安心させたいがゆえに不安をあおる、というおそるべき本末転倒に、ホラ吹きビギナーはまず気づかなければいけません。プラスに転じるならともかく、マイナスからただゼロに戻すだけの行為のどこが愉快で、いったい誰を笑顔にするのかよく考えてみる必要があります。結果として安心はするかも知れないけれど、マイナスにされた不快な印象がそれで消えるかといったら、消えないのです。

エイプリルフールがときとしてトラブルをもたらすのはこの誤認のためです。おまけに(ここがさらに面倒な点なんだけど)その事態を引き起こした本人にはなかなかそれがわかりません。何となれば、「ウソで良かったじゃないか、何を怒ってるんだ?」というきもちでいるからです。あまつさえ「これだからユーモアのわからないやつは困る」と開き直る可能性さえあります。ユーモアとは人を困惑させるものでは絶対にない、という大前提がすっぽ抜けていることに気づいていないのです。

話の着地点を「安心」にもっていこうとしてなおかつここがすっぽ抜けたままだと、最悪の場合たとえば

「君はクビだ!」
「えっ、そんな!」
「冗談だよ、ガハハハハ」

といった不毛なやりとりが生まれることになります。どう考えても発言した当人だけがおもしろがる致命的な状況です。本人は楽しませているつもりだからなおさら気の毒なことだとおもう。

ここではっきりさせておきましょう。エイプリルフールに吹くべきホラの正しい着地点は「本当でなくてよかったと思えること」ではありません。逆です。「本当だったらよかったのにと不特定多数が思えること」です。(対象が不特定多数であればあるほど、ホラの持つインパクトが分散して受け止め方がソフトになります)

ここを取り違えている人はエイプリルフールで話をわかってもらえないと嘆く前に、まずミュンヒハウゼン男爵が名誉園長をつとめるホラ吹き保育園に入園することから始めなくてはなりません。ユーモアとは何かという基本から、「ウソ」との区別、果ては夢とうつつの理想的な配分まで、手取り足取りやさしく教えてもらえるはずです。

そしてもうひとつ、ホラを受け止める側は、それが仮に眉をひそめるものであっても腹を立ててはいけません。腹を立てればそれだけ相手と同じ、ホラ吹き保育園の教室で席を並べることになります。園児のふるまいは教室の外から苦笑いで見守るのがいちばんです。この日に立てる目くじらだけは、事の可否にかかわらずやはり野暮と言わねばなりますまい。

件のニュースで言えば、望まぬところで振り回された美術館はもちろんきっぱり否定すべきではあるけれど、やっぱり腹を立ててはいけません。当館も知らずにいた当館の閉館について改めて検討した結果、やはり妥当ではないとの結論に至りました」くらいのかろやかな対応でさらりと受け流してほしいとおもう。そんな器量はないのか?なぜないんだ?

したがって、これら諸々から導かれる僕の結論としては、「どいつもこいつも片腹痛い」ということになります。ましてや応酬なんて、無益どころか論外です。取りなす価値もない。そんなことならエイプリルフールなんかとはさっぱり縁を切ったほうがよろしい。


ともあれこれで最低限、エイプリルフールとの向き合い方はわかりましたね。来年はトースターから思わぬタイミングでパンが飛び出したら、あわてず空中でバターを塗り、そのまま口でキャッチするくらいの柔軟な対応を各自心がけてください。では解散!

3 件のコメント:

単粒度砕石 さんのコメント...

私の場合、空中でバター塗るのは間に合わないから、口の中にバターを塗ってキャッチしようと思います。んがが。


なんだか身につまされる思いです。

三ツ星シェフ さんのコメント...

なるほど。ためになります。

私も男爵のご教授をいただきたく、入園を希望したいのですが、果たして本当のことを教えてくれるのかが心配です。

ピス田助手 さんのコメント...

> 単粒度砕石さん

それこそ柔軟な対応というものです。
口の中のバターに気を取られてパンを見失わないように!


> 三ツ星シェフさん

だいじょうぶです。心配いりません。
本当かどうかなんて大した問題じゃないですよ。