2015年6月29日月曜日

夏至のころになると恥ずかしがり出す団子屋の話


煮え切らない梅雨の晴れ間から、にじり寄る夏がちらりと覗きます。この時期になるとふと、以前ある町で行きがけに立ち寄ったちいさな団子屋を思い出すのです。

立ち寄った理由はとくにありません。しいて言えば暖簾が目に入ったからで、「串団子1本もってぷらぷら行くのもいいねえ」とかそれくらい何でもない成り行きです。ひとりで切り盛りしているらしいおじいさんに声をかけつつ、ショーケースを見るとみたらし団子が1串40円とあります。

僕が小さいころは近所にも1串30円の店がありました。でもさすがに21世紀を15年もすぎた今にあってこれは目をこすって見直すくらいの破格です。なんてこったこりゃ途方もねえ、と俄然テンションが跳ね上がり、1本どころか餡も焼きもみたらしも片っ端からいっとかなくては収まらないような気になってきます。

しかし帰りがけならともかく、行きがけです。あれこれ買いこんだところで道中に食い切れるものでもないし、と言って食わずに抱えて歩き回るのも団子のためになりません。それならここはまずひと串ふた串にとどめておき、帰りにまた土産として山ほど買いこむのがよろしい。

そこで店主に営業時間を尋ねてみたのです。

「今日は何時まで営業されてますか?」
「いつもは6時くらいだけど、でも、その…(ムニャムニャ)」
「6時ですか?」
「やーでもホラもう最近、明るいでしょー6時でも」
「日が長いですよね」
「そう、だからあのー」
「?」
「恥ずかしーんだよね、その〜、明るいうちに閉めちゃうとさー」
「え、恥ずかしい……?」
「恥ずかしーよ〜」
「(o゚Д゚o)」
(*´∀`*)」

お天道さんが見てると店を閉めづらい、と照れくさそうにする大らかな仕事ぶりと、ずっとそんなふうに日々を歩んできた店主の人柄にふれたら、それは誰だって胸をキュンと射抜かれようというものです。いったいどうしたらこんな生き方ができるんだろう?

約束どおり帰りに寄ったら団子もだいぶ減っていたので、残りをぜんぶ買って帰りました。考えてみればあの店にしてあの主人ありならみんなに愛されないわけないんだから、売り切れてなくてよかったと胸を撫で下ろしたものです。

もし次に行ったとき団子が倍額になってたとしても、やっぱり寄らずにはいられないとおもう。


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